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介護事故の現場から~デイケアにおける転倒で遷延性意識障害になった事案から [人身損害賠償について]

【事案の概要】

被害者は80代前半の男性。
ADLは、6メートル程度の独歩可能、食事・着替え・排泄の介助不要。
術後の歩行訓練等のリハビリ目的でデイケアを利用していたところ、
ケアワーカーが目を離した間に、一人で20数メートル歩行したところ転倒し、
急性硬膜下血腫により左片麻痺、遷延性意識障害となった。
デイケア施設に提出した主治医診断書には「転倒に注意」と明記されていたところ、
事故当日は、男性に立ち上がり行動が見られていたにもかかわらず、
ケアワーカーが別のフロアに離れる際、他の職員への引き継ぎもせず、
本件事故に至った。

【結論】

約3400万円弱の賠償金の支払いを受けて和解

【考察】

1.ADL情報やケアプランが現場のケアに反映していない

介護保険契約に際しては、要介護度の認定調査票や主治医意見書・診断書など、
ご本人のADL情報がケアマネージャーや施設に提供され、
ご本人の状態に応じたケアプランが策定されることになっている。

ところが、事故が起こってから介護記録を入手してみると、
このケアプランの目標や観察ポイントと、介護記録の記載とが、
まったくリンクしていないことが多い。

例えば、看護記録と比較すると、介護記録との違いは明らかである。
看護記録ではSOAP方式
  Subject サブジェクト:主訴
  Object オブジェクト:客観所見=検査データ等
  Assessment アセスメント:評価
  Plan プラン:計画
が浸透しており、
看護計画(プラン)に即して、プランの実施状況が看護記録に記載されている。

これに対して、
介護記録では、利用者との会話内容などのSubject(主訴)のみが
延々とつづられている記録が散見される。
ここにはケアプランとの連続性は全く見られない。

しかし、
せっかく本人のADLを評価してケアプランを立てても、
ケアに活かされなければ意味が無い。

介護現場は、もう少し医療モデルを参考にして、
ADL情報やケアプランを意識したケアを実施するように、
工夫が必要なのではないだろうか。


2.高齢者の介護事故の賠償額を分けているのは、事故前の能力

高齢者の事故(交通事故、医療事故、介護事故など)において、
加害者(事業者)の過失が明らかな場合であっても、
賠償額が数百万円にとどまる場合と、本件のように3000万円を超える場合がある。

この賠償額の格差が生じる要因は、事故前の能力の程度(素因)が大きい。

判断能力やコミュニケーション能力を有していた人が意識障害に陥った場合には、
仮に、事故前のADLとしては寝たきりに近い状態であったとしても、
運動機能障害とは異なる神経系統の新たな障害が事故により発生したということで、
3000万円台の慰謝料等が認められる。

他方、事故前から認知症が進んでいた場合には、意識障害に陥っても、
判断能力という同一系統の障害が進行した、として、
事故前の判断能力の低下が「素因」として大きく減額評価され、
数百万円の賠償額にとどまることが多い。

あるいは、事故前にはADLが自立していたにもかかわらず、
事故により麻痺が生じて寝たきりになってしまった場合には、
平均余命までの介護費用が賠償額に含まれてくるので、
数千万円の賠償がなされることもある。

このような場合であっても、被害者の原疾患によっては、
そもそも骨折したこと自体が「骨折しやすさ」という被害者側の「素因:と評価され、
大幅な賠償額のカットにつながることもある。

3.まとめ

超高齢社会に突入し、高齢者人口が増加していることから、
高齢者が被害者となる事故が増えている。
事故防止の観点からは、高齢者の特性を把握し、
本人のADL情報やケアプランをシステマティックにケアに活かす方策が
講じられるべきである。
同時に、賠償の世界でも、高齢者の特性を踏まえつつ適正な賠償がなされるべきである。



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